ドキュメント国士舘

夢をあきらめない 国士舘大学
政経学部の論拠

編集部:国士舘大学の政経学部政治行政学科で、学生はどんなことを学ぶのですか?

 国士舘大学の政経学部には、「政治行政学科」と「経済学科」の2つの学科があります。そのうち、「政治行政学科」では、現代社会のあり方を、政治や行政という視点から学んでいきます。もう少し具体的にいうと、政治に関する諸現象を、立法機関や行政機関、国際関係にも目を向けながら、幅広く学んでいくところです。
 私はそもそも、大学というところは広く教養を身に付ける場だと思っています。専門の知識やスキルを修得することも大切ですが、それよりもむしろ土台となる部分、人間力に関わる部分を、本学科のさまざまな学びから身に付けてほしいと思っています。
 大学を卒業した皆さんは、社会に出て主権者の一人になっていきます。だから、まず国民としてよりよい意思決定ができる人になってほしい。そして、この学科には公務員志望の学生もたくさんやってきます。本学ならではの充実したカリキュラムを通じて、教養や論理的思考力を養い、政治と行政の両方の視点を持った優れた公務員を養成していきたいと思っています。 。

編集部:先生は、どのような授業を担当されているのでしょうか?

 私が受け持っているのは、「憲法」の総則?統治機構論と人権論、「政治制度論」の総論と各論という授業です。憲法の授業を行うに際しては、特に心がけていることがあります。それは、政経学部で憲法を学ぶことは、法学部での学びと違った意味合いがあるということです。法律学というと、条文に書かれている内容をどう理解するか、あるいは実際に出された判決をどう読み解くかといった「法解釈学」的なアプローチが中心になります。でも、ここは政経学部であって、法学部ではありません。実際の政治問題や社会問題と憲法がどのような接点を持つのかという視点を意識しながら教えるようにしています。
 たとえば、今回の澳门小赌攻略_压大小稳赢公式—激情赢盈中の問題でも、特措法(新型インフルエンザ等特別措置法)という法律を根拠に首相が緊急事態宣言を発令し、それに基づき都道府県知事は外出自粛要請などを行いました。しかし、日本では現状、お願いはできても外国のように罰則付きで強制することはできません。なぜなら、憲法上、緊急事態に関する根拠規定がないにもかかわらず、「公共の福祉」の名のもとに人権制約がなされるということに慎重であるべきとの考えがあるからです。
 外国人労働者や自衛隊の問題なども、元を辿っていくとやはり憲法に行きつきます。このように実際の政治や行政、社会の問題の多くは、根っこの部分で憲法の問題につながっているのです。
 政治や行政の問題をそこだけで捉えると、「いいと思う」「悪いと思う」という表面的な議論になりがちです。でも、そこに憲法を持ってきて、憲法はその問題に対してどういうスタンスを取っているんだろうと考えると、物の見方が変わってきます。単に法解釈や裁判所の判例を学ぶのではなく、憲法は今の政治や行政、社会問題を考えるための手段なんだということを意識して講義をしています。

編集部:抽象的になりすぎず、できるだけ具体的な事例を取り上げて講義をするということですね。

 そうですね。昨年の授業テーマで特に学生が興味をもってくれたのは、皇位継承と女性?女系天皇問題です。「女性天皇」「女系天皇」の違いって何?といった問いから入っていきます。もし仮に、今の愛子内親王が天皇になられたら「女性天皇」ですよね。一方、ある女性天皇が一般男性と結婚されたのち、その子どもが天皇になられたら、それは「女系天皇」となります。これまで日本には、女性天皇が存在したことはありますが、いずれも「男系」の女性天皇であって、女系天皇ではありません。そういったことを、天皇家の系図を持ち出して、日本の歴史も含めて問題提起をしています。
 「日本も女性の天皇を認めるべき」という考えは、近年の男女平等や女性の社会進出という時代感覚から生じている部分もあるでしょう。一方で、これまでずっと男系天皇が皇位を継承してきたという伝統の重みにも目を向けなければなりません。日本の伝統的な価値観と、現在の皇室の在り方を踏まえたうえで、これからの象徴天皇制をどう考えますかといった問いを立て、学生と一緒に考えます。こういった身近な話題も、実は憲法に深くかかわりがあるのです。

編集部:政治制度論の授業は、どのような内容のものですか?

 政治制度論の授業は、春期が「総論」で、秋期が「各論」になります。総論の方では、民主主義とは何か、国家とは何かといったテーマに触れ、各論の方では、その国の歴史の中で、どのようにして今の政治制度ができてきたかといったことを見ていきます。
 授業で取り上げるのは、たとえば「代表」とは何かといった問題ですね。私たちは選挙で国会議員を選びますが、議員は選ばれてしまうと、もう国民のコントロール下にはなくなります。選挙のときは一所懸命アピールしたのに、当選した後に平気で所属政党を変わったり、また政党も分裂したりします。そういうことから政治に対する失望が生まれ、投票率の低下につながっていく。そこはどうなんだろうと疑問に思うわけです。議員は国民の代表というけれど、政治制度論の中で「代表」とは一体何なのか。フランス革命後にできた憲法なども見ながら、代表概念はどのように成立し、発展してきたのかといったことを考えていきます。

編集部:ゼミでは、どのような学びが行われるのでしょうか?

 ゼミは1年生のフレッシュマン?ゼミナール、2年生の基礎ゼミナール、3年生の専門ゼミナールⅠ、4年生の専門ゼミナールⅡを受け持っています。
 2年生のゼミでは、憲法の入門テキストを教材として使います。章ごとに学生をグループに分け、内容をまとめて発表してもらいます。でも、それだけだと教科書のコピーになってしまうので、そこに自分なりの新しい視点を盛り込んでもらいます。自分なりの意見をプラスすることで、少しでも議論を深めてもらいたいと思っています。
 3年生のゼミでは、もう少し専門的に、判例集などもあわせて読んでいきます。判例集には実際にあった憲法に関する事件のことが簡潔にまとめられていて、それに対して憲法学の第一線の研究者が解説を書いているので、一つの事件に対して多面的な見方ができるようになります。たとえば、学生が興味を持つのは自衛隊や安全保障の問題ですね。憲法九条に関連した事件では、実際にどのような判例が出されているかなどを、時間をかけて細かく見ていきます。
 また、憲法改正についても、「賛成派」と「反対派」にグループを分けて発表してもらいます。ここで大切にしているのは、結論ではなく、その結論に至ったプロセスです。賛成なら賛成で、なぜ賛成なのかをきちんと述べてもらいます。それも、「諸外国がそうだから」といった浅い議論ではなく、諸外国では認められてきたものが、なぜ日本では認められないのかという深いところまで踏み込んで議論してもらいます。このプロセスを重視することで、論拠を示しながら論理的に相手を説得するスキルが身に付くのです。

編集部:4年生になると、卒業論文に取りかかることになるのですか?

 はい。3年生のゼミで真面目に学ぶと、4年生の時点では自分でテーマを見つける力が身に付いているので、夏休み前くらいまでに卒論のテーマを決め、目次立てまでやってもらいます。私の用意した卒論作成のためのワークシートに書き込んでいく形で概要を構築し、必要な文献を洗い出していきます。この時点で、論文のテーマや構成、論証方法などに問題があれば修正してもらい、夏休みの間に集中的に作業をして、秋に再度中間発表をして仕上げていきます。
 卒論に限らず、ゼミで私が重視しているのは、「脚注」のつけ方を勉強することです。学生の提出するレポートの中には、ネット上の情報を無断で利用して書いたものがあります。学生はそもそもきちんとした文章を書きなれていないということもあって、中には人の書いた文章をそのような形で自身の作文に組み入れることに、そこまで抵抗のない人もいるようです。けれども、社会にでたらそれでは通用しません。会社の会議やプレゼンのときに、表やグラフを出してきて、「これ君が考えたの」と聞かれ、「はい、ネットに落ちていたものを拾ってきました」なんてことは許されないんです。自分の意見を論証するために、他者の著作物を引用することは必要ですが、「この部分は他者の著作からの引用で、自分もそう思います」という書き方でなければなりません。「注」を付けて、自分の意見と他者の意見をきちんと切り分けるのは、社会に出ていくうえで絶対に必要なスキルなので、基礎ゼミのときから学生には指導をおこなっています。

編集部:2020年の春期は、コロナウィルスの影響で、学生は学校に来られなかったとうかがいました。どのような対応をなされたのですか? 

 はい、その期間中は、すべての授業をオンラインで行いました。学生は事前に本学の「manaba」というサイトから授業資料をダウンロードし、準備してから授業に臨みました。また、授業動画はあらかじめ録画しておいたものを、学生が各自都合のよいときに見られるようにしました。
 留意したのは、できるだけ学生に負担がかからないような形で、通常の授業と比べて遜色のない内容を維持することでした。たとえば書画カメラを用いて手元のホワイトボードに板書しながらPDF授業資料に書き込んだり、マーカーを引いたりすることで、講義のライブ感を大切にしました。普通、教室の授業だと学生の顔が見えるので、だいたいの反応がわかります。でも、遠隔だと細かな反応が見えにくいので、その点はちょっと不便を感じましたね。授業後にアンケートを取って、理解が進んでいない分については、次回の授業で補足説明するなど、私なりに工夫を凝らしました。
 ただ、一方で、思いのほか学生が真面目に受講し、よく勉強してくれていることも分かったので、その点は安心しました。都合のよい時間に自分で授業動画が見られるので、出席率なども、課題提出等の状況を見る限りでは、かなりよかったです。日頃からYouTubeなどの動画に親しんでいるので、今の学生には意外とオンライン授業は適しているのかなという印象も持ちました。

編集部:先生は、憲法のどのようなことについて研究なさっているのですか?

 これまで、私が主に研究してきたのは憲法における皇室制度、中でも皇室財政についてです。皇室は、毎年国会が予算として計上した皇室費のうち、内廷費や皇族費によって生計を立てています。これらは所得税が非課税ですが、他方で昭和天皇が崩御された際には、一部の財産に相続税が課税されました。この点に疑問を感じたのがきっかけで、皇室財産の性格や、天皇の「公」「私」という問題を研究しはじめました。
 昭和天皇の遺産相続の際には古来皇位と共に伝えられてきた御由緒物(三種の神器や宮中三殿など)は課税対象にはなりませんでしたが、前述の内廷費の余剰を積み立てた財産には課税され、その他皇室に受け継がれてきた美術品等は相続に際し、その多くが寄贈などによって国有化されました。将来にわたって、皇室に対して課税されつづけるというのは、日本における天皇や皇室の位置づけからみて妥当といえるのかどうか、戦後の日本国憲法制定過程において、GHQの政策や意図が現行皇室(財政)制度にどのように作用しているのか、そういったテーマを大学院にいたときから研究してきました。
 そして今現在、これとは別に憲法改正問題についても関心をもっています。戦後70年以上も実現していない憲法改正をどう捉えていくか。その意味では今回のコロナ禍で注目を集めた緊急事態条項の研究も重要です。改憲には前向きな野党もでてきて、一通りテーマや議論は出揃っているように思われますが、その間にも国際情勢や少子高齢化の進行、外国人労働者問題など変化している部分もあるので、そういった観点からも研究を進めているところです。

編集部:公務員相談室の相談員もされているとうかがいました。ここでは、どのような指導を行っていますか?

 もともと国士舘大学は公務員の養成に力を入れていて、この相談室もその一環で開いているもので、公務員志望の学生が相談にやってきます。そういう学生たちに公務員の仕事の魅力を伝えながら、受験に向かうモチベーションを高める指導を行っています。
 多くの学生は公務員試験を大学受験と同じように考えていますが、学科試験をパスしただけでは受かりません。そこが最低限のスタートラインで、むしろそこからが本当の勝負です。だから、学生には希望する自治体に足を運び、資料集めをしたり、お祭りのボランティアに参加したりしなさいと言っています。面接や論作文など、自治体によって試験科目は違いますが、その自治体のことを熟知し、絶対にここで働きたいという熱意がなければ合格しません。早い時期から意識づけをして、自治体のSNSをチェックするとか、インターンをやるとか、事前に対策を立てることが大切です。一人で受験を頑張るのはかなり辛いので、私たちはマラソンの伴走者のような感覚で、学生の相談に乗るようにしています。

編集部:最後の質問です。政治行政学科の学びを通して、先生はどんな人間を育成したいとお考えですか?

 個々の学生によって違いがあるので、一概には言えませんが、一つ言えるとすれば、筋道立てて物事を考え、答えのない問いに対して自分の意見をもち、合理的な判断を下せる人間になってほしいということです。これから学生は社会に出て、苦労することもあるでしょう。大きなプロジェクトを任されてプレッシャーを感じたり、挫折したりすることもあると思います。大学で学ぶ専門的な知識は、研究者にでもならない限り、そこまで必要になりません。それよりも、専門領域の学びを通して、あるいは専門領域の先達の考えを学ぶことによって、よりよく生きるために何をすればいいかを、自ら考えられる人になってほしいと思います。
 初めにも申し上げたように、社会にでたら一人の人間として、種々の判断を下して自身の人生を切り拓いていくと同時に、一人の主権者として国家の土台?未来を作っていかなければならないわけです。憲法学的な物の捉え方や、物事の調査方法、政治や社会問題をどういう切り口で見て、それについてどう考えるのかを他者に表現する力。これらは、人生の壁にぶつかったときに、きっと役に立つはずです。学生には、そういう実践的な力である「人間力」を、政治行政学科の学びを通して身に付けてほしいと願っています。

山田 亮介(YAMADA Ryosuke)講師プロフィール

●修士(法学)/日本大学法学研究科 博士後期課程(単位取得退学) 公法学専攻 博士課程単位取得満期退学
●専門/憲法学、皇室制度

掲載情報は、2020年のものです。
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